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「銀の糸」 泉清隆

シリアに伝わるクリスマスツリーに飾る、金や銀

の糸の美しい伝説があります。

ユダヤのヘロデ王はイエスを拝みにいった三人の

博士たちからベツレヘムに新しい王が誕生したこと

を知り、自分の王として立場が脅かされると不安に

なり、「ベツレヘムとその付近の地方とにいる、二

歳以下の男の子を、すべて殺せ」と命令を出しまし

た。ところが、ヨセフに天の使いが夢に現れて、エ

ジプトに逃げるよう告げました。ヨセフとマリアは、

荷物をまとめて、夜のあいだにベツレヘムをあとに

しました。エジプトに向う荒野のまんなかで、とっ

ぷりと日が暮れかかった時、やっとのことで、ヨセ

フは小さなほら穴を見つけました。赤子イエスを抱

いたマリアとそのなかに入り、一夜を明かすことに

しました。ところで、ほら穴の入り口に、一匹のク

モが住んでいました。クモは思いました。「砂漠の

夜はとても冷え込む。なんとかあたたく過ごさせて

やれないものだろうか」そして急いでほら穴の入り

口にクモの巣をかけはじめました。それはほら穴の

入り口をすっかり塞ぐほどのみごとなクモの巣とな

りました。クモはつぶやきました。「よし!こうし

ておけば、冷たい風が吹いても大丈夫。ほら穴のな

かまで入ってこない」クモは、イエスさまのために

自分としてできる、最善を尽くしたのです。その真

夜中近くになって突然、遠くから馬のひずめの音が

近づいてきました。ひずめの音にマリアとヨセフは

ハッと目を覚ましました。駆け足で近づいてくる音

はますます大きくなってきます。「ヘロデの軍隊に

違いない」ヨセフはマリアにそう言いました。マリ

アは、すやすやと眠っているイエスを抱きしめます。

もし、イエスさまが泣き声をあげたら…。兵隊に見

つかってしまう。ふたりは息を殺して、耳をすませ

ました。すると大きな声がしました。「おい、ここ

にほら穴があるぞ。お前、このほら穴を調べろ」ヨ

セフはマリアを抱きしめ、マリアはイエスさまをし

っかり抱き、心の中で祈りをささげました。「神さ

ま、神さま、助けてください」兵隊のくつの音がほ

ら穴の入り口でピタリと止まりました。ところが、

兵隊は入り口に立ったまま、入ってくる様子はあり

ません。そのとき、再び先の声が聞こえました。「お

い、どうしたんだ。なぜ、ほら穴のなかに入って調

べないんだ」すると別の声がしました。

「隊長、ほら穴の入り口はクモの巣で塞がっています。

この中に逃げ込んだなら、くもの巣は破れているはず

です。このほら穴の中に人がいるはずはありません」「な

るほど。それもそうだ。ここにはいないな。さあ、別

の方を捜してみよう」兵隊たちは馬に乗り、ひずめの

音をひびかせて荒野のかなたに消えて行きました。ほ

ら穴の入り口には、夜露を浴びた大きなクモの巣が月

光に照らしだされて、キラキラと輝いていました。次

の朝、ヨセフとマリアは神さまに感謝して朝日を受け

て輝くクモの巣を破ってエジプトを目指していきまし

た。すべてのことを見ていらした神さまはクモの愛の

行いを良しとされました。

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