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「誕生物語の意味とその後」

「『自国ファースト』的な志向が世界中に蔓延し、 核廃絶や軍縮に向けての国際社会の切望や真摯な努 力は実るどころか、逆の方向に驀進していると思わ される世界の現実。力に任せて、自分や自国だけに 光のスポットを当て、自らの深刻な影にもまるで気 付かず,他者,ことに無力な人々を顧みることもない 生き方やあり方が蔓延」(「聖書教育」2019年10月1 1月12月号「金子純雄氏」)しているのはイエスの時 代もそうであったと想像します。★マタイとルカの 降誕物語はイエスがヘロデ王の時代(BC37~BC4)の ユダヤのベツレヘムでダビデの子孫ヨセフと婚約し ていた処女マリアから聖霊によって誕生したことは 一致していますが、ストーリーは異なっています。 描き方は異なっていますがイエスの誕生を祝おうと したのは貧しく弱く、疎外され、蔑まされた人々で あったと二人の著者は語っています。降誕物語は「小 さくさせられた者」たちが軸となって、この人々に こそ最初の喜びの使信が告げ知らされた編集をして います。★マタイの冒頭の系図(タマル/創世記38章、 遊女ラハブ/ヘブライ11:31、モアブ人ルツ/ルツ記、 ウリヤの妻バト・シェバ/サムエル下11章)の女性た ちは時の社会で翻弄され、苦しみぬいた弱者です。 マタイは4名の影をもつこの女性を系図に書き入れ ました。そして系図の最後にイエスを置きイエスこ そが女性たちを照らし出す光であると強調をしてい るといえます。マタイによるとヘロデ王、祭司長、 律法学者とエルサレムの住民までもが同調してイエ スの誕生の知らせには否定的な反応(2:3)を示しま した。対照的にイエスを最初に拝みに来たのはユダ ヤ人ではなく怪しげな存在であった占星術の学者を 登場させています。「羊飼い」を聖書は肯定的《良 い羊飼い(詩編23編/ヨハネ10章)・百匹の羊(ルカ15 章)に捉えていますが、羊飼いは当時卑しい職業と みなされていました。その羊飼いを登場させてイエ スの誕生の告知をルカは綴っています。★二人がこ れらを著わした意図は神の救いの業(福音)は民族の 枠、社会的地位、性差を超え限定されることなく広 く開かれたものであるといえます。つまり誕生物語 から福音の普遍性が読み取れ、イエスの誕生は異邦 人、社会的弱者、被抑圧者に対する喜びのお知らせ であることが読み解けます。

★イエス時代から2000年の今、物の豊かさで国、地域 が比較され人間の豊かさはGDP(国内総生産)で経済指標 化され続けています。その結果見えてきたものは民族 紛争、環境破壊であり人間関係、家庭崩壊の兆しも窺 われています。最近SDGs(持続可能な17の開発目標)へ の共感が強くなっていますが、先進諸国の政治的分極 化など人間が直面している問題はいずれも答えはない ようです。がしかし、誕生物語の次には異なる国籍や 性別、信条、価値観などの多様性を尊重し受け入れる 「しなやかな感性」を兼ね備えて成長される少年イエ スの物語(ルカ2:41~52)が続いていきます。今 日を生きるわたしたちはイエスの豊かさ(Ⅱコリ8:9) を各々が与えられている場所で、他者を慮って試行錯 誤せよと命令されていると思えてなりません。

(内山賢次兄)

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