「愛に生きよ」 マタイによる福音書 5章38~42節
今朝の聖書箇所は、「あなたがたも聞いているとおり」といって、よく知られた「目には目を、歯には歯を」という古い戒めから始まります。これは旧約聖書の出エジプト記21章22~25節、レビ記24章20節などにも記されています。古くはバビロン(現在はイラクの首都バグダッドの南約90キロにあった古代メソポタミア文明の中心として栄えた都市)のハムラビ法典にまでさかのぼります。この「目には目を、歯には歯を」だなんて、現代の私たちの感覚からすれば、ずいぶん野蛮なように聞こえますが、もともとの意味は同害同復法といって、私たち人間の復讐がエスカレートしていくのを制限するものでした。
復讐というものはだんだんとエスカレートするものです。創世記4章23~24節には、「わたしは傷の報いに男を殺し、打ち傷の報いに若者を殺す。カインのための復讐が七倍なら、レメクのためには七十七倍」とあります。復讐は徹底的にするということです。自分が受けた以上の苦しみを相手が受けないと、気がすまないのです。
今も世界各地で繰り返されている紛争のことを思い起こします。イスラエルとパレスチナの紛争ひとつをみてもそうです。思いかえせば、父親の陰にただ隠れようとしていたパレスチナの少年が、イスラエルの兵士によって射殺されるという衝撃的なニュース映像を思い出します。すぐさま、パレスチナ人の怒りが頂点に達し、イスラエルの兵士三人をリンチで殺してしまい、それがまた報道されました。そうするとすぐにイスラエル軍が報復措置としてパレスチナの町を空爆しました。
石を投げつけられたら、銃で撃つ。リンチをされたら、空爆をする。これによって死者は双方にまたがりましたが、その数は圧倒的にパレスチナ人の多くの命が失われたと報道は伝えていました。パレスチナの少年たちもイスラエル軍に対する憎しみを募らせ、大人に交じって投石をしていました。戦車に向かって投石をする少年の写真もショックでした。報復というのは、終わりのない憎しみの連鎖なのです。
大野裕昭(西南学院大学神学部神学専攻科)