憐れみ深い方
- 泉清隆
- 2017年9月2日
- 読了時間: 3分
福岡にある少年刑務所で1万人以上のカウンセリングをした相部和男さんの 話に次のようなものがあります。 ある時、少年院でも手の付けられない乱暴者の少年を個人面談することにな りました。彼は生後間もなく父親と死に別れ、母親はほどなく彼を捨てて男の 所へ走ったので、幼い時から叔父夫婦の手で育てられました。伯母は自分の子 供には小遣いをやりましたが、彼には1銭も与えなかったのです。ご飯は三杯 以上食べることを厳禁し、極端な差別待遇を受けました。そのため、少年は小 学校2年頃から盗みを働き、やがてそれが習慣になりました。叔父はその度に 体罰を加え、素っ裸にして家の外に放り出しました。小学6年の時、たまたま お爺さんから、叔父夫婦が実の父親母親ではないことを聞かされ、ますますひ ねくれました。同時に自分を産んだお母さんにどうしても会いたくなり、そし て中学卒業後間も無く彼はお爺さんに連れられ、夢にまで見たお母さんによう やく会うことが出来たのです そのころ母親は 別の男性と同棲していました 。 、 。 初めは暖かく迎えてくれましたが、彼がお母さんと一緒に暮らしたいとお願い すると、急に冷たい態度に変わり、拒否されました。優しいお母さんのイメー ジが完全に壊れた後、彼はやけくそになり、少年院入所と出所を繰り返すよう になります。しかし院の中でも暴れ回る、どうにもならない人間と思われたの です。 しかし相部さんは時間をかけて、彼の心の叫びを聞きました。4回の面談で 自分がどんなに醜い過去を告白したとしても軽蔑されないということがわかる と、彼は正直に自分のことを打ち明け、それと共に前向きになっていったので す。ところがある時、相部さんがカウンセリングルームに入った時、机の上の インク壺にインクが2割しか入ってないのに気づくのです。盗んだのは例の少 年です。その前日、彼の相談に乗った時には満タンだったからです。相部さん は早速その少年を呼び出しました。彼は恐怖のあまりうなだれ、まともに顔を 見ることができませんでした。やっとのことで蚊の鳴くような声で「先生すい ません」と言うのが精いっぱいです。相部さんは「インクを持ってきなさい」 と言うと彼は自分のビンを持ってきました。ところがビンの中には盗んだイン クの5分の1くらいしか入ってません 「どうしたの? 「皆に配ったんです、 。 」 先生、本当にごめんなさい。僕は違反ばっかりだったので、院内作業に出るこ とが禁じられているんです。それで作業賃を一切貰えないんです。それでここ では何も買えないんです それで 盗んだインクを売りました ごめんなさい 。 、 。 」。 相部さんは目の前で崩れて行く少年の告白を聞くと、少年のインク壺を引き 寄せ 自分のインク壺を 、 、 傾 け 残っていたインクを少年のビンに 注いだのです。 少年はビ ックリして相部さんの手を 押さえようとしました。しかしアッと言う 間に、インクは1滴残 ら ず少年のビンに入って行ったんです。少年は 大声を上 げ て嗚咽しました。 罪 を 犯したのに、関係を切られることなく、罰の 代わりに 愛 を 注がれたからです。 神の前にいるわたしたちに 対して、 神がなさるのはこ れ以上のことです。 神 は キ リスト の ゆえに人間の罪 を 赦すだけでなく、 恵みを 注いで 下さる 方、憐れみ 深 い 方なのです。
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